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  • バリュー投資とモメンタム投資/藤島実

    過去に大成功を収めた方法を真似ても同じ方法では再び大成功を収めることはむずかしいと言われます。

    古い話ですが、バサロ泳法と呼ばれる潜水泳法で鈴木大地選手はソウルオリンピック100メートル背泳ぎを制しました。潜水泳法はルール改正で後に制限を受けるものの、潜水泳法を行うライバルはその後数多く現れました。鈴木大地選手はソウルの次には出場しませんでしたが、たとえ出場したとしてもオリンピックで再び勝てたとは限りません。株の世界では、本来の価値よりも割安な水準と判断したところで株を買い、本来の価値に株価が追従したときに売りに出すバリュー投資と呼ばれる投資手法があります。少しこじつけですが、先の水泳の話で言えば、古くからよく知られていた速度向上に有効な潜水泳法を用い、レース中の大半の距離で実践するということに当たるでしょう。オリンピックで金メダルが獲得でき名声を得たということは、バリュー投資が大成功を収めたのではないでしょうか。

    一方で、その時々の値動きのみに注目し、勢いに付くモメンタム投資と呼ばれる投資方法があります。先の話で言えば、鈴木選手の潜水泳法の成功を見て、一生懸命その練習をして成果を収めることにあたるでしょう。よほどの信念が選手だけでなくコーチにない限り、水泳の世界ではモメンタム投資的トレーニングが行われます。選手として旬な期間は限られていますので無理からぬことでしょう。それに、ほとんどの世界記録は突飛な手法ではなくモメンタム投資的スタイルにより連続的に向上しています。しかし、バサロ泳法よりも、平泳ぎから派生したバタフライかもしれませんが、中にバリュー投資的スタイルで非連続に記録が向上することもあるのです。

    工学研究は、既知の自然法則や経験則をうまく組み合わせて新しい応用を作り出す研究です。基本法則から派生する自然法則や経験則は星の数ほどあります。その中の、まだあまり十分にスポットライトを浴びていない法則に着目し、それを応用につなぐことはバリュー投資的研究スタイルです。一方、新聞や雑誌に取り上げられるような旬のテーマに旬の手法を組み合わせて取り組むのはモメンタム投資的研究スタイルにあたるでしょう。

    一見バリュー投資型研究のほうがよいイメージを持つかもしれません。しかし、着目した法則自身は、人から注目されていないわけですから、アイディア段階では多くの人の理解が得られにくい可能性があります。何をやっているかわかりにくいテーマでは学生の人気も得られにくいでしょうし、外部資金の獲得も容易ではないかもしれません。つまり、株のバリュー投資と同様、成果が出るまでは苦しい時期に耐える期間が生じます。

    一方、すでに注目されているトピックをベースにするモメンタム投資型研究の場合、研究内容を理解してもらうことは難しくないかもしれません。まじめにこつこつ取り組めば、それなりの成果は期待できますし悪くはなさそうです。でも、傑出した研究成果を出すことはあまり期待できないかもしれません。

    研究者としての理想は、やはりノーベル賞的成果を期待できるバリュー投資型研究なのでしょう。成果主義は大学にも浸透してきていますので、バリュー投資型研究を目指すには、成果が出ない期間を耐え忍ぶだけの、強靭な精神力が必要になるでしょう。とはいえ、大学は法や倫理に違反しなければ、任期期間中に免職されるということはありません。若いときに、スポーツなどを通じて強靭な精神力を養っておきたいものです。その精神力こそはバリュー投資型研究(仕事)スタイルに取り組む大きな力になるのではないでしょうか。

    (藤島 実:新領域創成科学研究科基盤情報学専攻・准教授)

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