新任のご挨拶/岡田至崇
昨年4月1日付で先端科学技術研究センターの新エネルギー分野准教授として着任いたしました。現在私の研究室では、III-V-N系化合物半導体材料や、ナノ構造を導入した新しい概念・構造をベースに太陽電池のエネルギー変換効率を飛躍的に高めるための研究を進めております。2050年までに我が国の二酸化炭素排出量を半減する目標~Cool Earth~が策定され、クリーンな新エネルギーとして高効率太陽電池をはじめとする革新的な研究技術開発が必要とされています。
大学院時代は多田邦雄先生の研究室に在籍し、半導体光スイッチの偏波無依存化及び高速化に関する研究を行いました。研究室の先輩の中野義昭先生に指導いただいた電子回路を組み立てるため連日秋葉原までパーツの買い出しに走ったこと、またプロ級の腕前のコーヒーと一晩の宿をご馳走になるため、実験が終わってから先輩の根津のアパートに何度もお世話になったことも懐かしい思い出です。当時の電子工学専攻では、超LSI、光ファイバ情報通信ネットワーク、超伝導工学・結晶成長工学の分野等で世界をリードする最先端の研究が行われており、たくさんの優秀な留学生も多く加わって、早朝から夜遅くまで熱気が溢れていました。
博士課程修了後すぐ筑波大学に赴任しましたが、出口を見据えた研究テーマ、またそのために自分にできることは何かといったことを意識し、研究に没頭することができたことは、まさに東京大学在籍時代に経験し学んだことと思っています。かれこれ14年ほど前になりますが、従来の単接合太陽電池に量子井戸構造を導入し、より多くの近赤外領域の太陽光を吸収して出力電流及びエネルギー変換効率を増大させるという新しい発想の論文が私の目に留まりました。1990年にJournal of Applied Physicsに掲載された論文ですが、以降、私の研究室のメインテーマの1つとして注力し取り組んでおります。「研究には寝食忘れて取り組まなければならない時期がある」という多田先生のお言葉を胸に、望みうる最高の研究環境で日々奮闘しております。
また日頃ご多忙でいらっしゃったにもかかわらず、電気系の先生方は私たち学生に対して全力で向き合い、課題解決に向けて一緒になって知恵を絞ってくださいました。在籍時代の経験が今の私のエネルギー源であり、元気を与え続けてくれています。素晴らしい環境で、先生、諸先輩方に多くのエネルギーをいただきましたが、これをいかに母校に、また次世代を担う学生の皆さんたちに引き継いでいけるかを、微力ながら環境・エネルギー問題と同様に取り組んで行ければと思っています。”The importance of culture is to “pass it on”.” 今後とも変わらぬご指導ご鞭撻を賜りますようよろしくお願い申し上げます。
(昭和62年修 先端科学技術研究センター准教授)