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  • 老齢化と社会インフラの劣化/尾上守夫

    昨年は正直に言って「老い」を実感する一年でした。5月末に転倒事故を起こしてから、遅ればせながら杖を使いはじめました。まだ雨が降ると傘との併用をどうしたらよいか試行錯誤しております。

    これまでは何か故障が起こっても、手術で前以上に回復するのが常でした。たとえば長年悩まされた乱視と近視が、白内障の手術ですっかり直って、メガネがいらなくなりました。

    昨年はめまいがしたり、足が痛んだりすることが多くなり、病院にいくと、各症状に対応して「めまい外来」「整形外科」などの各診療科を紹介してくださり、そこではCTやMRIなど最新の診断機器による検査に基づく診察が行われます。たしかに歳相応の症状はあるが、今すぐ手術などリスクの多い治療をする必要はないということで、お薬などいただいて様子をみることになります。

    身体のあちこちに不調を覚えると、一体どこに重点をおいて対処したらよいのか迷います。新聞やテレビでサプリメントなどの広告が多いのもうなづけます。米国では総合的に判断する老齢学(Gerontology or Geriatrics)も盛んですが、日本での普及はこれからのようです。この老齢学の存在を半世紀以上も前にいち早く紹介したのは中谷宇吉郎「老齢学ー長生きをする学問の存在」(1950.2)です。戦後間もなく訪米して、「今度のアメリカ訪問で、一番印象に残ったのは、老人が沢山いて、それが矍鑠として、元気で働いていることであった。」と書いています。今からみると、当時の老齢学は半ば栄養学で、「(老衰期)において栄養のバランスを取りながら、正常な生活状態を続けさせるのが、この方面の科学の任務である。」と言って、ビタミン、ミネラル、高蛋白の摂取を勧めています。今の日本の広告はその再来といっていいでしょう。

    正常な生活状態は人間ならQOL(Quality Of Life)、社会ならインフラの健全性となるでしょう。それを対象物を傷つけないで、X線、超音波、光、電波などでチェックする無侵襲診断と非破壊検査とは、技術として共通する点が多く、私はそれを足がかりに両分野の研究に従事してきました。

    一昨年非破壊検査協会が創立60周年を迎え、それを記念して「長寿成熟社会を支える非破壊検査」という講演を行いました。(これもこのウエブでご覧になれます。)

    http://messena.la.coocan.jp/ACADEMIA/EElonglife/2012_longlifeNDT.pdf
    日本は全土を焼き尽くした戦災から立ち直って、世界のトップレベルの長寿と潤沢な社会インフラの整備とを達成しました。しかし今や老齢化とインフラの劣化とに対処することが求められています。

    人間の身体には、温度、圧力など多種多様のセンサーが密に分布し、神経網が総括して脳に伝えます。MEMS小電力発電素子などの発達で、似たようなセンサーネットワークを、建物や橋やトンネルに設置することが可能になってきました。まだ精緻さで人間にはおよびませんが、一つまさるのは長年の正常時のデータを蓄積して、過負荷や異常の発生を的確に判定できることです。人間は自分で解釈し、言葉を介して医師に伝えないといけません。私の乏しい表現能力では的確に伝えられなくて、もどかしい気がします。これも神経を伝播する信号や脳の活動状況を計測する技術が発展しつつありますから、改善される見込みがあります。両分野の発展をこころ待ちにしています。

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