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  • デザインとdesign/五十嵐浩司

    「プロダクト・デザイン」という言葉を見かける機会が多くなった。実際、このプロダクト・デザインの思想を掲げたatehaca(図1は電子レンジと電子炊飯器)、amadanaや±0など日本独自のブランドが続々と登場している。直訳すれば製品の意匠となるが、最近では工業製品のデザイン性追求という意味で使われることが多いようだ。しかし、このデザインが技術や理論に大きく依存していることはあまり知られていない。

    例えば、現在でも広く使われている椅子の一つであるLCWやDCW(図2)は1950年代にチャールズ&レイ・イームズから発表された傑作と言われている。この美しくかつ座りやすい3次元曲面を持つ椅子が大量生産可能になったのは、軍需技術の開放に伴いプライウッド(ベニヤ板)の成型技術が飛躍的に向上したためである[1]。

    別の例としては、1958年に発表されたポール・ヘニングセンのPH5ランプ(図3)。現在のランプの標準デザインと言われるこのランプは、その時代に大量生産され始めた「格好悪い」白熱電球全体を覆い隠す構造となっている。それにもかかわらず、ランプ直下に光が集まるように、光線理論に基づきシェード曲面が設計されており、テーブルランプとして充分な明るさが得られるようになっている[2]。以上の例に見られるように、プロダクト・デザインは工業製品に対する理念の実現そのものと言っても過言ではなく、製品開発同様に技術・理論が必須である。英語のdesignを英々辞書で調べてみると「To make or execute plans / To have a goal or purpose in mind」となっており、上の意味が含まれている。その一方で、日本語の「デザイン」という印象が強くなると、この意味が失われてしまう恐れがあることを忘れてはならない。

    我々の研究分野でも「design」という言葉を良く使う。それにもかかわらず、実験を進めていると必然的なdesignとなっておらず「デザイン重視」になっていることが多々ある。プロダクト・デザインは元来「芸術のための芸術をやめ、生活に芸術を取り戻そうとする理念」を発端とした思想らしい[1]。我々の研究でも、「研究のための研究をやめ、さて、理念は何なのか?」、と自問自答することが重要なのだろう。

    [1] 勝美勝著、「現代デザイン入門」 鹿島出版会。
    [2] PDの思想委員会、「プロダクトデザインの思想Vol.1」 ラトルズ。
    図1 我が家のatehaca製品。
    図2 我が家のLCWとDCW。
    図3我が家のPH5ランプ。

    (五十嵐 浩司:工学系研究科電気系工学専攻・講師)

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