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  • 「議論は楽し」/峯松信明

    電気系のGCOEでは、博士学生の海外発表を積極的に支援している。国際会議の出張費の援助である。但し「武者修行をしてくること」という条件付きで、である。その会議が開催される近隣の大学/研究所を訪問し、関連するテーマの研究者と議論してきなさい、というものである。

    何も、学生には負けてられん、と気負っている訳では無いが、私も国際会議の前後にあちこち研究所訪問を楽しむことが多い。正直、癖になっている、と言ってもよいかもしれない。米国や欧米まで行くのであれば、どこかでストップオーバーしても(飛行機でどこかを経由し、かつ、そこで1、2泊する)、飛行機代は殆ど変わらない。だとすれば、ストップオーバーして、あちこち出向いた方が金銭的にも効率的である。

    この訪問癖であるが、何も学生時代からあった方ではない。当時はGCOEのように、学生にお給料を払うようなシステムは学内にはなかった。また、海外渡航の援助をこんなに高確率で get できる仕組みもなかった。だから、という訳では無いが、学生の頃の海外出張で、その前後に研究室訪問するのは教授の後に付いて、というパターンが多かった。

    この訪問癖であるが、事の発端は、在外研究員時代である。ストックホルム(スウェーデン)にある、王立工科大学(KTH)に一年間滞在した。名前だけ聞くと、日本で言う学習院大学みたいなものを思い浮かべるかもしれないが(皇族が通う大学、といった気配を名前から感じる、という意味で)、ごくごく普通の工科大学である。ここに一年滞在した訳だが、その後半に、フランス/イギリス/ベルギー/オランダ/ドイツ/ノルウェーとあちこちの研究機関を訪問した。15ヶ所ほど回っただろうか・・・。

    メールを出し、訪問の許可をとり、出向いて議論する。多くの場合、1時間ほどのゼミ形式の場を用意してくれており、教授陣を含めそこの研究室の学生とも議論する。色んな意味で刺激的な旅であった。ヨーロッパはアメリカとは異なり、電車の旅が出来るので(でも、日本のように時刻表通りには動いていない。日本の交通システムは超優秀である。曽根先生万歳)、電車を乗り継いでは、異なる文化の香りをかぎつつ、次の議論の場へ、とハシゴしたものだった。相手も、私も、外国語としての英語を使い議論する。国際会議ではごくごく普通に見られるシーンであるが、こういう時に、 ESSで活動したことの有り難みを感じる。

    この議論の旅が、あまりにも、楽しかったのである。

    私の研究テーマである音声コミュニケーションは、人を研究の対象とすることから、自ずと対象とする範囲が広くなる。まあ、際限ない、と言ってもよいかもしれない。工学、理学、医学、文学とまたに掛ける形で研究するテーマである。KTH時代の訪問先も、理系/文系問わずに選んだ。これが、楽しかったのである。

    KTH時代にやり始めた音声処理論(音声構造論)も、この時の議論があればこそ、である。

    そして、今がある。2006年の春などは、Speech Prosodyという学会がドレスデン@ドイツであり、その1週間後にツールーズ@フランスでICASSPという学会があった。ドイツから帰国して、すぐフランス入り、などという非効率なことはしたくない。当然、ドイツ→オランダ→フランスと電車の旅を企画した。これ、当たり前。

    私の訪問先は、会ったことも無い人を訪問することの方が多い。国際会議で会える人は、そこで聞けばよい。論文や本やwebの記事を見て、「あ、この人とおしゃべりしたい」と思えば、会いに行く。ただ、それだけである。私は彼/彼女の知らないことを知っている。彼/彼女は私の知らないことを知っている。二人が2時間ほどおしゃべりすれば、何か面白いことが起きそう、と思えば、会いに行く。ただ、それだけである。

    KTH時代に感覚したことは、大学の先生は誰でも基本的には、どちて坊や、どちて嬢ちゃま、ということである。「XXやってる者です。先生のYYな記事読みました。私の研究テーマと、ZZな繋がりがあるように思います。DD/MM/YYの午後に訪問して良いですか」というメールが来て、無下に断る大学教官などいない。

    2006年春のドイツ→オランダ→フランスの1週間の旅行は、ライプチッヒのマックスプランク研究所で脳科学と音楽学の研究者/オランダのナイメーヘンにいる音声科学・工学の研究者(学会でも会う人)/フランスのパリで失読症(Dyslexia)の研究者の3人を訪問した。ライプチッヒとパリは初めて会う方である。もちろんメールでのやり取りは何通かした相手ではある。

    2008年春は、ICASSPが4月にラスベガス@アメリカで、Speech Prosodyが5月にカナンピーナス@ブラジルであった。ラスベガスの帰りに、サンディエゴの脳科学研究所を訪ねた。またしても、脳と音楽の研究者であり、初対面の方である。カンピーナスの帰りはコロラド州立大学を訪ねた。自閉症と動物学の研究者である。当然、初対面である。

    コロラドでは、グランディン教授と面会したのだが、この時の訪問記が実は、とある本に記載されている。ノンフィクションライターで有名な最相手葉月さんが12人の研究者を追っかけて執筆した「ビヨンド・エジソン」の第六章にある「言葉の不思議を探求する」は、峯松のグランディン訪問記である。内容はこの本を参照して頂きたいが、テンプル・グランディンをご存知の方もいらっしゃるかもしれない。特に米国在住の方は、彼女の伝記が、昨年度テレビ映画化され、エミー賞をとったことを覚えている方もいるだろう。世界的に有名は自閉症(アスペルガー症候群)者である。なお、この本の紹介記事として、これを紹介しておこう。

    会ったこともない研究者を訪問し、あれこれ議論する、と言うと格好良く聞こえるかもしれないが、トラブルは付き物である。全てが全て上手く行く訳では無い。相手がどのくらい私の言ったことが理解できたのか、「?」なことも、正直ある。「君のやろうとしていることは理解できたが、それよりも理解できたのは、私にはその数式が理解できない、という事実だ。」と言われたこともある(ドイツの心理学者)。理系/文系をまたに掛けて議論を持って行けば、こういうのは日常茶飯事である。ある意味、相手の持っている知識を考慮した上で言葉を選び、その場で言語獲得をしながら議論する、みたいなゲーム感覚もある。相手の表情を見ながら、語彙を変え、表現を変え、例え話を使いながら、みたいなゲームである。ゴールは相手の「深いうなずき」が得られるかどうか、と言ったところか。

    今年のICASSPは5月にプラハで開催される。東大五月祭と時期が重なっているため、今年企画されている電気系の大イベントに参加できないのは残念だが、でも、楽しい議論の旅をまたしてくる。場所はヘルシンキである。昨年幕張で行われたINTERSPEECH の論文を読んでいて「お、このポスドク、中々面白いことやってるね・・・」というのに遭遇し、すぐメールを書いた。「ICASSPの前後、行っていい?プラハとヘルシンキ、近いよね。」と。幼児の言語獲得をシミュレートする形で音声処理を機械に実装している連中だ。今回は専門が結構近いので、互いの論文を読み準備をした上で、熱とアルコールの入った議論を始めることになるだろう。

    税金を使って、こうも楽しい旅をしてよいものか、と正直良心の呵責に悩むこともある。昨今の仕分けや日本経済の現状を考えると尚更である。でも、今は「(恐らく)私にしか見えてないこと(もしかしたら勘違いかもしれないが)を、最終的には、誰に対しても分かるような語彙を使って説明する(つまり、国民に報告する)ためのトレーニング」だと思って、割り切って、楽しませてもらっている。新しい知を発見し、それを国民に伝えるのが大学教官の務めである、と思えば「これも、仕事の一つ」となる。

    つい先日、嬉しい知らせが来た。峯松は2004年?2008年まで柏を本拠地としていたが、当時、お隣の先端生命科学専攻で「音声の構造解析とゲノム ?音声はゲノムか、ゲノムは音声か?」という講演をさせてもらったことがある。この講演を聴講されていた学生さんが、今、日本科学未来館の企画担当をしており、「先生、あの時の講演、ワクワク感を一般の方々にも届けたいので、是非、協力して下さい」とのメールが来た。無駄に税金使ってないことを、国民の皆様にご報告申し上げる機会が舞い込んできた。嬉しい限りである。今回は幾つのうなずきと出会えるだろうか。

    議論の後に、シャッターを押すのが恒例行事なので、何枚か掲載しておこう。



    1件のコメント »
    1. 決して税金の無駄遣いではありません。学会の草の根外交の最高のかたちと考えます。これからも、どんどん輪を拡げられて、ご活躍下さい。研究者でもなく、理系に弱い単なる言語学専攻の言葉好きの身分にもかかわらず、まさに、上記の「ワクワク感」を味わさせていただいた者として、心から応援申し上げます。果たして、日本の研究者の方々は、気さくに会って下さるのでしょうか。因みに、米国在住30年ですが、ふた昔前に修士課程に入った折に、教授陣全員がファーストネームでのお付き合いだったのが新鮮でした。大学院生は、同等の研究者仲間なのだ、と言われたのを思い出します。

      Comment by ヘニンガー悠紀子 — 2012年12月10日 @ 09:13

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