• 最近の記事

  • Multi-Language

  • 新年のあいさつ/池田久利

    1月6日にオランダの電力研究所KEMAを訪問するために、1月5日に成田を発った。欧州はその前の週まで寒波と大雪であったので、オランダの空港には残雪が数メートルに積み上げられていたが、私が滞在した週は幸いなことに暖かい週間であった。クリスマスが終わった街は静まり帰って普段の生活が始まるので、日本が正月休み明けで活動を始めるこの時期に欧州で活動するのは効率が良いと思う。しかし、帰国後は旅行の疲れで自分の活動が鈍るので、折角正月で充電した体力が有効に生かされず、結局は「怠け者の節句働き」になる。

    さて、大電力試験というのは、電力系統で発生する大電力現象を等価的に模擬して電力機器の性能を検証する試験である。最も代表的な機器は、1100kV超超高圧(UHV,Ultra High Voltage)送電など、送電や配電の系統を保護する要となる電力用遮断器である。電力用遮断器の電流遮断では、非線形特性を有し、かつ制御が難しい、アークプラズマを用いるので、実規模での性能検証が必要で、1100kVで63kAという巨大な電力で性能を検証する。試験には、短絡容量が5000MVAに達する短絡発電機を含め、巨大な設備を要する。高電圧の研究分野は比較的よく知られているが、大電力試験は高電圧でかつ大電流を扱うため、特殊な技術分野である。世界電気標準会議(IEC,International Electro-technical Commission)では、高電圧試験に関する技術委員会TC 42が長年活動してきたが、昨年ようやく名称に大電流分野を含めることになった。

    訪問したKEMAは大電力試験研究所として、半世紀以上に渡って「ダントツの世界一」と評価されている。企業で遮断器の開発を担当していたころ、KEMAの大電力試験に企業の遮断器開発技術者として立ち会ったが、その正確な試験には驚かされたことを覚えている。この試験技術を支えているのは、一つ一つの普通のことを、基本に忠実に、積み重ねることであると感じたことが、強く印象に残っている。KEMAが世界一に君臨し続けられるのは、大きな設備を戦略的に投資する姿勢と、技術者の精神によると推察する次第である。現在このKEMAに迫るのは日本の大電力試験研究所であろう。

    また、韓国は急速に実力を伸ばしており、中国は設備容量では世界一となっている。1974年に就職した私は大電力試験研究所で臨界プラズマ実験装置JT-60に用いる直流遮断器の開発に従事した。遮断器は電流零点で遮断するので、零点のない直流の遮断は容易ではない。その上100kAを超える電流を数分間隔で遮断する、高度で過酷なものであった。大電力試験研究所は交流遮断器の開発で占領されており、JT-60でのみ使用される直流遮断器の開発は、会社が休暇になる時期しか使えなかった。しかも夏休みや5月の連休は試験設備の年次点検が予定されており、正月休みに直流遮断器の性能検証は集中した。このような状況で入社後3年間は正月休みがほとんどなかったことを思い出す。「怠け者の節句働き」はこのときからの習慣となっているのかもしれない。

    10数年前オランダのスキポール空港からKEMAまでは乗り換えが必要で、その乗り換えをする駅がスリの拠点になっていて、多くの日本人が被害にあっている。今回は新しい路線ができており、空港からKEMAまで乗り換えずに、行くことができるようになっていた。

    コメントはまだありません »
    Leave a comment

    コメント投稿後は、管理者の承認まで少しお待ち下さい。また、コメント内容によっては掲載を行わない場合もあります。