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  • A new “spin” on semiconductors/田中雅明

    電気系同窓会報幹事の先生から今回、日本学術振興会賞という小生にとっては過分とも思える賞をいただいたことに関して原稿を書くように、との話をいただきました。日本学術振興会賞とは、公式な説明によりますと「我が国の学術研究の水準を世界のトップレベルにおいて発展させるために、創造性に富み優れた研究能力を有する若手研究者を早い段階から顕彰し、その研究意欲を高め、研究の発展を支援していく」ために平成16年に創設されました。今回は3回目であり、人文・社会科学および自然科学の全分野を対象に、平成18年4月1日現在で45歳未満の若手研究者で博士号をもつ者が候補者となりますが、415名の被推薦候補者の中から江崎玲於奈先生を委員長とする審査委員会で審査の結果25名が選ばれました。東大電気系の同窓生で過去の受賞者には、1回目の大野裕三先生(東北大学)、2回目の横尾真先生(九州大学)がおられます。授賞式は3月2日に上野の日本学士院において、秋篠宮殿下、同妃殿下のご臨席のもとで行われました。式後の懇談会では、両殿下が受賞者1人1人のテーブルを回られて気さくにお話をされました。私どもには1人30秒で(!)研究の内容を両殿下にご説明するように、とあらかじめ学振の担当者から指示があり、これにはたいへん難儀しました。もちろん、両殿下は、小生の拙い説明にもときにうなずかれながら、たいへんにこやかに聞いて下さいましたが。

    さて、説明に難儀した小生の研究「半導体と磁性体からなる複合構造の研究とスピンエレクトロニクスへの展開」とはどんなものか、簡単に申し上げると、つぎのようなことになります。ご存知のように、電子(electron)は負の電荷をもちelectronicsなどさまざまな技術の源になる素粒子ですが、トランジスタの発明以来、20世紀後半のエレクトロニクスや情報通信技術の発展は、主に電子の電荷を用いたさまざまな半導体デバイスの作製と進歩によってもたらされました。一方で、電子は「スピン(spin)」という本質的な性質をもっています。スピンは量子力学の概念(量子数±1/2)ですが、古典力学でいえば電子の自転に相当します。この自転は決して止まることがないので、電子はそれ自身が小さな磁気モーメントをもつ電磁石であるともいえます。つまり、スピンをもつことによって、電子は世界最小の磁石でもあるのです。ところが、エレクトロニクスや情報通信技術を担う半導体デバイスにおいては、電子の電荷とその伝導が主に使われ、もう一つの自由度であるスピンや磁気モーメントの性質が使われることはありませんでした。私どもは、21世紀の半導体テクノロジーにおいては、この“スピン自由度”を積極的に用いたい(そうすればエレクトロニクスの新しいパラダイムをつくることができる)と考え、研究室の仲間や学生達と一緒に、電子の「スピン」やその秩序(磁性)が現れる新しい物質やナノ構造の開拓と、それらのもつ磁気情報の不揮発性、光の非相反性などの磁気光学効果、大きな磁気抵抗効果などを半導体デバイスやエレクトロニクスに応用する研究(最近では「スピントロニクス」と呼ばれています)をこの十数年間、行ってきました。この分野は、90年代はじめには研究者人口はきわめて少なかったのですが、現在では非常に盛んになり、世界的な新しい研究の流れになりつつあります。

    私は大学院時代には榊裕之先生のご指導のもとで「半導体ヘテロ構造・ナノ構造」の研究を行い、続いて東京大学工学部の教員として奉職してから10年余りにわたってご指導いただいた西永頌先生から「結晶成長の科学と技術」の面白さと深さを学ぶことができました。90年代はじめからは並行して「磁性・スピンの物理と応用」の領域に足を踏み入れ、2年間滞在したベル通信研究所の研究者仲間達を含めて、基礎科学から応用分野に至る国内・海外のさまざまな優れた研究者達との交流がありました。このような異なるディシプリンの交差する領域を見出し、汲(く)めども尽きぬ面白さを感じながら研究を続けることができたことはこの上ない幸運でした。この間、小生の研究室に加わってくれた多くの研究員や大学院生たちの努力のおかげで、研究が大きく進展しましたし、いまも進行中です。今回ご推薦いただいた保立和夫・工学系研究科副研究科長、大津元一・電子工学専攻長の両先生をはじめ、東京大学電気系の先生方には日ごろよりたいへんお世話になっております。研究の自由を保障し、長期的に支援を与えて下さったご関係の皆様に感謝するとともに、微力ながら研究と人材育成の両面で今後も努力を続けて参りたいと思います。同窓会員の皆様には、今後ともご指導ご鞭撻(べんたつ)のほどよろしくお願い申し上げます。

    * spinは、回転、自転、量子力学でいうスピン角運動量、などの意味の他に、「ものの見方」「観点」という意味もある。題目は、「半導体」にこれまでとは別の新しい見方(=spin)を示すという意味を込めた。

    (昭和59年電子卒 工学系研究科電子工学専攻教授)

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