• 最近の記事

  • Multi-Language

  • 新任のご挨拶-バイオとエレクトロニクスの融合に向けて-/田畑仁

    平成18年(2006年)12月1日付けで工学系研究科バイオエンジニアリング専攻に赴任して参りました。この専攻は、工学系研究科の中の横型専攻として、平成18年4月に発足したものであり、電気、機械、化学など既存のディシプリンを基盤としながらバイオ分野における融合研究を推進すると共に、当該分野の俯瞰的かつ多角的視野をもった人材を育成するために設置された専攻であります。現在、機械、マテリアル、化学、物工などの専攻から専任、協力、兼担の形で参画する24名の教員で構成されており、私は電気系を元専攻としてバイオエレクトロニクス分野を担当させていただいております。

    私はこれまでに、酸化物エレクトロニクスと、バイオエレクトロニクスを2本の柱として研究を行ってまいりました。私と酸化物エレクトロニクスとの最初の出会いは、京都大学在学中に酸化物高温超電導体が発見され、当時の研究室の主なテーマが金属系超電導体(NbTi、Nb3Sn)から酸化物系へシフトした運命的なものでありました。その後、超電動電磁推進船などを研究開発していた某重工メーカー(神戸に本社)に就職し、超電導研究を継続すると共に、酸化物エレクトロニクス材料の一つである強誘電体薄膜を用いた不揮発性メモリや、非冷却型赤外線イメージセンサの開発に携わってまいりました。1994年に、企業在職中より超電導研究でご指導いただきました、大阪大学産業科学研究所の川合教授の研究室で助手として採用いただいた後、助教授を経て、2002年からは同ナノテクノロジーセンターの教授として、ナノマテリアル・デバイス研究部門の人工生体情報ナノマテリアル研究分野を担当して参りました。

    このように研究場所を京都―神戸―大阪と移してまいりましたその先々で、多くの方々と物理的・空間的に親密に交流させていただき、さまざまな新しい研究に関する刺激を得ながら共同研究をさせていただく機会を得ましたことは、私のかけがえのない経験・財産となっております。

    ご存じのとおり現在のエレクトロニクスは、主にシリコンを基材としてその不純物濃度や微細加工の精度を極限まで制御することにより、高集積、高機能、高速化を実現するという“トップダウン”技術により発展してまいりました。“回路設計図”に基づき基本要素となるCMOS トランジスタなどがチップ上に超高密度に集積されております。一方、バイオ系では、DNA に組み込まれた“命の設計図”に基づき、アミノ酸・タンパク質が合成され、これらが基本要素となって“ボトムアップ”メカニズムにより集合(組織化)することで細胞・生物が形成されております。特にこの境界が材料と生命を分かつきわめて大きな“階層の壁”であり、かつ一般的な材料と異なる興味深い点であるといえます。

    酸化物エレクトロニクス研究における、HighK(高誘電率)材料や、不揮発性メモリ(強誘電体)、電荷へのスピン自由度の付与(スピントロニクス)といった現在のシリコン素子へのコンパチビリティを探るアプローチとはまったく異なるものとして、生体のもつこのユニークな機能をエレクトロニクスに活用し、新しいエレクトロニクスへと展開できればと思っております。

    一例として、生体を“知る”ために、半導体素子の一つであるイオン感応トランジスタ(IS-FET)を使ったDNA/タンパク質センサの開発を実施しております。また、生体に“学ぶ”アプローチとしては、特に生体に特有の“ゆらぎ”を模倣するため、室温でスピングラスや双極子グラス(リラクサー強誘電性)特性を有する機能性酸化物を開発し、その物性揺らぎを活用したデバイスや、光誘起スピンを用いた確率共鳴素子やシナプス接合型メモリなどのデバイス研究を進めております。さらに、ナノバイオデバイスを目指して、DNA 分子のプログラム自己組織化、クローニングを利用した3次元ナノ構造制御によるバイオ分子センサ・メモリの創製など、“バイオ:Bio”と“酸化物(Oxide)”を融合した“バイオキサイド(BIOxide)エレクトロニクス”研究分野を新しく切り拓ひらいていきたいと考えております。

    今回ご縁ありまして、歴史と伝統を誇る東大電気系の教員の一員として研究・教育に携わる機会を与えていただくこととなり、お骨折りいただきました諸先生方に改めてお礼申し上げ、その幸運に感謝いたしますと共に、その責務の重大さに身の引き締まる思いを感じてやみません。ご指導・ご鞭撻を賜たまわりたく、何卒よろしくお願い申しあげます。

    (昭和63年京大卒 工学系研究科バイオエンジニアリング専攻/電子工学専攻(兼)教授)

    コメントはまだありません »
    Leave a comment

    コメント投稿後は、管理者の承認まで少しお待ち下さい。また、コメント内容によっては掲載を行わない場合もあります。